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テスラモーターズ x マリオ・カルポ x 新国立競技場

ちょっと前の話であるが、思い出して書いている。
昨年10月13日、東京に行ったときの話をもとに。
この日、私は3つの体験をした。

①テスラに乗った
場所は南青山にある テスラモーターズジャパン
試乗したクルマは、Tesla Model S75 だった。
午前10時、試乗の手続きをすませてクルマに乗り込む。
第一印象は、”デカッ” 。(やっぱりアメリカのクルマなんだよな)
車幅が気になるので、そぅっーと動かしてみる。
だんだん慣れてきて、青山通りを渋谷に向かって順調に走らせる。
途中、信号待ちの先頭に。絶好のポールポジション!
信号、青。ここぞとばかりに、アクセル全開踏み込んでみる。
スッーーと異次元空間に吸い込まれる感覚に。
わずかな ”キーン” というモーター音が耳に残る。
これは、自動車とは違う移動体であるというのが率直な感想。
下の写真は、ショールームに展示されていたModel S の筐体。
オールアルミフレーム(ダイキャスト+押し出し材の溶接構造)の裸身を眺めているとゾクゾクしてくる。
たまらなくセクシーで美しいと感じる。
20151013-140430-IMG_3857

②建築史家 マリオ・カルポの話を聞いた
場所は六本木アカデミーヒルズ。
WIRED CITY 2015」カンファレンスでのお話し。
スクリーンショット 2016-09-02 14.06.56

以下は、私の意訳を含めた解釈とその感想。
建築エンジニアリングは、物理の法則を知らなくても成り立つ時代がすぐそこまできている。
或いはもう実現している。といったものだった。
これは、ビッグデータによるトライアンドエラー方式(Ex.グーグル方式)に依るところが大きい。
グーグル方式とは、Google Gmailの扱いのとおりデータを垂れ流しにしておいて(整理はせずに)必要なときに、膨大なビッグデータから瞬時に検索を行い解決する手法のことを指す。
ここでいうところの整理とは、物理学の理論を使うということも含んでいる。
理論方程式による各プロセスの中間解答を求めず、瞬時に物理シミュレーションを行い結果を出す。
NGならばもう一度。そして、これを何度も繰り返す。
OKならば即、採用。
つまり、整理すること(Sort)を行わず、一発検索(Search)で解決できてしまうというわけだ。
入口と出口だけ立ち合う。
なぜその結果にたどりついたかの検証はしない。(ということだと私は思う)

建築は分業制の現体制から発案者が自分でものづくりをした時代に戻ることができる。
いわゆる職人気質の時代に戻るというわけだ。
その時代、職人は理屈(物理の理論)ではなく、直感による判断を重んじていた。
その直感を手助けするのがグーグル方式(膨大なビッグデータから一発でSearch(サーチ)を行う手法である。
Sort作業(理論を駆使した並べ替え手法)を専門家に依頼せずとも、自分自身で直感的に先ずはシミュレーションを行ってみてダメならもう一度、うまくいけば採用。

理屈では解るし自分自身の肌感覚でもそのようになっていくんだろうなと感じてはいる。(クルマの自動運転技術でも同じような感覚を覚える)
でも、、、怖い。
職人は経験を積み、また経験を積み、まだ経験を積み、その域(直感を重んじる)に達するのだ。
達してはじめて判断を下せるようになる。そしてそれが気質となっていく。

経験の浅い者が気質だけなぞって得られた結果は。。。
グーグル人工知能(AI)のお墨付きであればそれで良しとできるのだろうか。
私が怖いといっているのは、AIのことではない。使う (実態は ”使われる” が正しそう) 側の人のことである。
誰かが、その中間に位置し案配を見届ける必要があると私は思う。
直接効率は下がるけれども、未来を見据えた全体効率は良くなる気がするのだが。
それは、いずれ来るといわれるAI支配の世の中になったとしても、だ。

そんな時代の大きな流れの中で、自分の ”役割” というものについて考えさせられる話だった。

それはそうと、この日のカンファレンスの中で、「ゲームが都市を拡張する」 というテーマで講演した須賀健人Niantic, Inc.)さんの話が面白かった。
”陣取り合戦”、”友情”、”世界が舞台”、”動いて遊ぶ” をキーワードにゲーム開発を行っており、キャラクターは ”ポケモン” だと。
何しろ彼自身が面白がっているのが ”熱” として伝わってきていた。
この時は、世の中には面白いこと考えるヤツがいるんだーなーという感覚。
これが、”ポケモン Go” のことだったということは、ずいぶんあとになってから気がついた。

②旧国立競技場跡地に行った
この日、旧国立競技場が解体された現場に行ってきた。
ここに建つ予定だった新国立競技場ザハ案は、この時すでに白紙に戻されていた。
ぐるっと一周歩きながら、この案との関わりについて思い起こしていた。

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その新国立競技場デザインのザハ・ハディド氏率いるzaha 事務所は、BIM*を利用した建築手法で有名だ。
ダッソーシステムズ社+ゲーリーテクノロジー社のソフトウェア、Ditigal Project を駆使しているといわれている。
このアプリケーションソフトウェアは、ダッソーシステムズ社の3DCADソフトウェアCATIAをモデリングエンジンとして建築用にカスタマイズされたBIM*ソフトウェアである。
CATIAは世界中の航空業界・自動車業界・製造業界に浸透している。
つまり、物づくりに最適化された建築用のソフトウェアであるといえる。


BIM*
BIMとは、Building Information Modeling(ビルディング インフォメーション モデリング)の略称。
コンピューター上に作成した3次元の建物のデジタルモデルに、コストや仕上げ、管理情報などの属性データを追加した建築物のデータベースを、建築の設計、施工から維持管理までのあらゆる工程で情報活用を行うためのソリューション。


わたしもこの新国立案件に仕事として関わる可能性があるとなった時、深く知りたいと考えた。
恵比寿で開催されたダッソーシステムズ社主催セミナーに参加してその機能の本質を理解しようとした。
講演時に質疑の機会があり、講演者のダッソーシステムズ副社長に直接質問をしたことがある。
彼の名は、Mr. Marty Doscher (マーティ・ドッシャー)
以下、その時の受け答え。

Q: 私
DititalProjectにより、職人の人手不足・職能不足など建築業界における構造的欠陥に対応できると考えているようだが、職人達が考えることをしなくなり、技術を習熟する機会を奪うことになるのでは。結果、貴社の狙いとは逆に職人が育たず減ることにつながりませんか?

A: Mr. Marty Doscher (マーティ・ドッシャー)
技術者(日本では職人と呼ぶ)には二種類存在します。
ひとつは、高学歴の集団で今後益々力を付けていく人たち。
彼らは、次々と技術を習得・蓄積してマネージャークラスとして高収入を得ることが出来る。
もう一つは、力を持たない集団。
いわゆるワーカーと呼ぶ人達のことを指すという。
彼らは、指示されたことだけを行い時間給を目的とする。
自社の技術により、この後者の人達が建築の職人として活躍することが可能となる。

という答えであった。
私にはそのように割り切れるものでは無いと感じたが、これがシステム提供者側の真意と判断した。

また、この手法により建築された韓国ソウルにある東大門デザインプラザ(DDP)にも足を運んだ。
そして、その外装曲面建築を手がけた韓国の建築施工会社に出向いてその技術に触れた。

その技術・手法たるや圧巻だ。
いわゆる日本式の職人技による職人個々の曲げ加工技術の利用など最初から当てにしていない。
ザハデザイン独特の流線型の建材加工(自由曲面の加工)をシステムとして捉えている。
設計(デザイン)から施工までの過程一連の流れを全てデジタルデータに置き換える事が大前提。
特に施工過程において基本システムとして足りない機能は付け足す、あるいは新たに作り(創り)出すことで、解決に導いている。
そこには、最新のデジタル技術(テクノロジー)は欠かせない。
しかし、そのシステム成功の鍵となっているのは、キーテクノロジーでなくキーマンなのである。
デザインそのものの善し悪しや、竣工時のザハ氏スピーチの是非など別にして、この建築は成功(成立)した。
この建築が成立した最大要因は ”人” である。
そこに携わった人々の熱意や情熱が原動力となってプロジェクトを成功に導いた。
これは、数回にわたり韓国エンジニアの方々と交流を重ねて確信した ”キーファクター” である。

一方、日本ではこのシステムが日の目を見る前にプロジェクト自体が破綻した。
破綻の経緯は別として、現実に起きた事実をまとめている総括表がこちらである。(日経アーキテクチュア記事より抜粋)
スクリーンショット 2016-09-02 09.35.06

例えばこんなふうに考えられないだろうか。
プロジェクトチームが収穫を行う。
収穫した果実をチームの皆で山分けするときに、分ける順番を決めるのは誰なのか?
やはり選ぶ順番を決められるのは、チームのキャプテンなんだと思う。
キャプテンとしての ”責任”。
“決めるのは自分なんだ”  という自覚。
決断に対しての ”誇り”。

この表が露わにしているのは、私たちの ”美意識の欠落” 。
プロジェクト破綻の真の原因はそこにあるのではないかと私は思う。

この体験を通じて感じたこと。
私は、もっと技術についての ”作法” を身につけたい。

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